設定1

二人の病人、二つの部屋、一人の女、一枚の壁、一つの鍵。

この素晴らしい世界に生まれて

全てを赦さないという強い意志。 何物も認めないという絶望的な努力。

定理1

生きるということは目的ではなく状態なのだと肝に銘じなければならない。

百億の時計

その古い旧家には家具が所狭しと並べてあった。正確には、家具であったもの、と言い換えたほうがいいかもしれない。戸の外れた茶箪笥、CDを読み取れなくなったプレーヤー、何度もデニーロの腕立て伏せを繰り返し映し続けるビデオ・・・・その部屋にある家具…

1分クッキング

自分が傷つけた人間と同じだけの傷を受けたら、小間切れのミンチになってしまいました

外因性圧力

「酒は機械的抑圧に対する唯一の解毒剤である。」うそつけ、ヘミングウェイ。 いくら飲んでも効きやしねえ。

永久円運動

苦難に満ちた一年間のレース。岩壁を乗り越え、砂漠を突っ切り、ライバルの断末魔をエンジン音でかき消しながら、ようやく走りきった長いコース。何人に抜かれたのか、何人抜き返したのか、彼には見当もつかなかった。 彼はただへとへとに疲れていた。調子の…

言語フィルター106

A=B、B=Cだからといって、A=Cではない。こういうことを真顔で言うと、阿呆だ、間抜けだ、と、したり顔で指摘される。しかし、世の中は数式のようにはいかない。私が阿呆で、彼も阿呆だからと言って、私=彼というわけでもないだろう。だが、等符号で結ば…

物語だけでは戦えないのだろうか?そんなことはないはずだ。

1=365

その日が終わらずに、何回も繰り返していることに村人たちが気づいたのは、いくつもの昼と夜が過ぎてからだった。 その事実を知ったとき、村は一種の恐慌状態に陥った。この世の終わりだと頭を銃で撃ち抜く者や酒瓶を抱えて幾晩も眠らずに飲みつづける者、燃…

無垢な少女

繭を細工して作ったブローチ。 1日かかってようやく1つ作れる、不恰好で見栄えの悪いブローチ。 そのブローチを宝物のように両手で包み、笑顔で孫に見せる祖母。

黒い薔薇のささめき

最近あまりよく眠れない。わけのわからない夢ばかり見る。これから長距離を運転しなければならないドライバーの目が見えていないことが、タバコを間違えて買ったことでわかる夢。戦闘機に乗って戦いに出るが、撃ち漏らした敵機に相棒が撃墜される夢。絶望を…

未完の書

彼がネット書店で見つけた本の作者は彼だった。 しかし、その本は彼がまだ書いていないものだった。

ステファーノ

月火水木金土日月火水木金土日月火水木金土日。 狂ってる。いったいどういうことなんだ。

紅い夢の切れ端

「強く思えば叶う。」 「キモい。」

データラブ・データラブ

彼のはデータの作成を仕事にしていた。彼のもとに来る依頼は絶え間なく、そのため彼は忙しい日々を送っていた。今ある最も近い言葉の中から選ぶならば、それはコンサルティングとかシンクタンクとかが適当なのだろう。しかし、それはあくまでも近似値なので…

どれくらいの長い煩悶と絶望を味わえば、そんな場所に行けるんだ、ヘンリ・ミラー?

ある果てしない跳躍

私には名前がある。当たり前だ。誰にでもついている。親(あるいはでしゃばりな祖父)によってつけられたこの名前は、私には変えることができない。いや、見た目上は変えることができる。役所に申請して認められれば、変えられるのだろう。詳しい手続きは知…

それでも生きなければならない

to be or to be

耐えられない存在のバルサミコ酢

「何、本気になってんだよ」と無我夢中の人間を一歩引いた場所から見下ろしているこの優越感に、言っている自分が夢中になっているというこの矛盾。

全ては幻想である

って言った所で、何もないことに変わりはなく。そんなこと、君たちはとうの昔に知っているんだよね?あのふわふわのクッションや、洗い立てのタオル、泡だらけのビールなんか、すぐに萎れてしまうものだって知っているんだよね?折り目のない1万円札、ぴかぴ…

不敗の公式

(上底+下底)×高さ÷2 (上底+下底)×高さ÷2 あほか

彼の最終日

父が死んだという知らせを聞いたとき、彼は23歳だった。 電話を受け取ったとき、彼は下宿で一人絵を描いていた。画家になろうとしていた。母親の泣き声で震える受話器を持ちながら、その報せがどういう意味のものかを、彼は瞬時に悟った。絵筆を放り投げ、郷…

SOTT

一言で真実を表す言葉を吐ければ、私はその後一切口を開かないだろう。 まぶたを黒い糸で縫いつけ、唇はホチキスで止め、耳には硫酸を流し込み、すべてから隔絶するだろう。 そして、私はそのまま彫像として固形化するか、あるいは液体としてインド洋に流れ…

空色のワンピースの女

「ああ、あなた!人が、人が死んでいるわ!」 「ほっとけ。起きてるか寝てるかの違いだけだ。」

切り崩された崖に咲く白百合

「私は、時間が、怖くなったのです。」 そう書き残して、彼はいなくなった。 彼は始終何かやっていないと落ち着かないたちだった。 気のきく男だと評判だったが、あまりにも気忙しすぎるので、うっとうしく感じることも度々あった。 彼は週に7日働いた。一週…

私は惰性で生きられるほど強くないのです。

黒鳥のざわめく森の中で

常識、溺れた愚者の灯明、塹壕の中の兵士の見る空

灰をかぶった娘の揺れる小指

私がまだ2度目の誕生を経る前、世界はよほど私の近くにあった。 友人は誰もが優しく、家族は皆暖かかった。 花々は瑞々しく、空はつかめるほどに近かった。 しかし、一度死んでからは何もかもが変わってしまった。 物は全ての色合いを失い、灰色の絵の具が空…

Pola

私たちは敵のいない戦争に駆り出されている。 共産主義は死んだ、ヒューマニズムは息絶えた、飢えははるか遠くのアフリカにだけある。 残っているのは私たちを乗せて永遠に回り続ける円盤しかない。 薄汚れた工場、巨大な官公庁、灰にまみれたトラック、塵一…