全ては幻想である

って言った所で、何もないことに変わりはなく。そんなこと、君たちはとうの昔に知っているんだよね?あのふわふわのクッションや、洗い立てのタオル、泡だらけのビールなんか、すぐに萎れてしまうものだって知っているんだよね?折り目のない1万円札、ぴかぴかに磨かれた便所、朝から晩まで愛を歌い続ける大きなスピーカー、そいつらが全部腐った砂で作られたまがい物だって知っているんだよね?
私だってそれくらい知っている。

だけど、そういうことを全部知った上で、なおのことわずかな一瞬のために身を捧げているあなたたちは素晴らしい。馬鹿にしているんじゃない。本当にそう思っているんだ。ほんの1インチの幸福に身をすり減らし、魂を削っている姿は神々しいくらいだ。涙まで出てきそうになる。涙の半分はあなたたちの幸福に。半分は私の不幸に。私もそうなりたいのだ。心から、そう思う。嘘じゃない。