アリッサたち

映画史上最も長い殺害シーンとして記録に残る(九分五十八秒)『張りぼての星空』(原題half moon light)で、殺害されるヒロイン・アリッサを演じる女優ケイト・ウォルタースは、誰かがその映画を見る度に殺されていた。スクリーンの中で、テレビの中で、その冗長ともいえるシーンの中、悶え苦しみ、愛する主人公・ロイの名を何度も叫び、黒い遮光カーテンを引き裂き、コーヒーメーカーを引っくり返し、テーブルの足を折り、窓をあけようとして長い爪を剥がし、床に頬を擦りつけながらも背中に突き刺されたナイフを取ろうとしながら絶命する。彼女は何度も何度も殺された。やがて、そのシーンに飽きてしまい、遮光カーテンを丁寧に折り畳み、コーヒーをカップに注いで一息で飲み干し、椅子を投げて窓を叩き割り、窓辺に座ってマイケルジャクソンの「スリラー」を口ずさみながらアリッサは観客を眺めることにした。それでも観客は彼女が殺されるのを期待して、ビデオを借りたり映画館に足を運んだが、いまやそのシーンは冗長な殺害シーンではなく、単なる冗長なシーンとなっていたので、彼らのほとんどは眠ってしまった。退屈したアリッサは窓から身を投げた。なんとか起きていた彼は、アリッサのイレギュラーな死を見ることができた幸運な観客の一人だった。その瞬間、彼は恋をしていたのだ。しかし、奔放なアリッサ=ケイト・ウォルタースはプロデューサーにスクリーンから追い出され、彼は二度と見ることができなかった。彼はがっかりしながらもまた映画館へと足を運んだ。