百億の時計

その古い旧家には家具が所狭しと並べてあった。正確には、家具であったもの、と言い換えたほうがいいかもしれない。戸の外れた茶箪笥、CDを読み取れなくなったプレーヤー、何度もデニーロの腕立て伏せを繰り返し映し続けるビデオ・・・・その部屋にある家具であったものたちは、それぞれがその機能を停止した瞬間から完全に時の流れの外にいた。それはまるで針の動かなくなった時計が無数に置かれているようだった。私は試しに手近にあったゼンマイ人形のネジを巻いてみた。人形は錆付いた音を響かせながら、砂となって崩れていき、跡形もなく消えてしまった。私はこの家から出られるのだろうか、とふと疑問に思った。