永久円運動

苦難に満ちた一年間のレース。岩壁を乗り越え、砂漠を突っ切り、ライバルの断末魔をエンジン音でかき消しながら、ようやく走りきった長いコース。何人に抜かれたのか、何人抜き返したのか、彼には見当もつかなかった。
彼はただへとへとに疲れていた。調子の上がらないエンジンを無理にふかせて、彼は最後のコーナーを曲がる。白いテープを持つ二人の水着の美女の姿が見えてくる。もしかして、俺は一番なのか・・・・?彼はあちこちガムテープで何重にも補強したヘルメットを脱ぎ、ゆっくりと愛車を進める。ゴールラインを割ったところで、エンジンは軽い溜め息をつくように黒い煙を吐き出し、その動きを止めた。彼は虚脱状態の体を何とか持ち上げ、マシンから這い出る。周りには誰もいない。そうだ、俺は一番だ。苦労の甲斐があったというものだ、これで俺も名誉と栄光を手にいれられる!彼の腕は自然と高く掲げられる。声にならない叫びが口からついてでる。彼はそのまま崩れ落ちそうになるが、両側から水着の美女に支えられ、何とか持ちこたえる。
「おめでとう、おめでとう。」拍手をしながら、ゆっくりと近付いてくる太ったスーツの男が、彼の涙に潤んだ瞳に映る。素晴らしい、なんたる快挙だ、と呟きながら、男は彼の手を握り、肩を抱く。彼は感涙のあまり、むせび泣きながら聞き返す。「やりました、俺が一番ですよね!このレースのチャンピオンなんですよね?」男は手を離し、しかめ面で首を振りながら答える。「いや、このレースは一周では終わらないんだ。まだ続きがあるんだよ。」彼は絶望し、がっくりと崩れ落ちる。彼の背後のコースでは、何台もの車が濛々と砂煙をあげ、通り過ぎていく。