うらぶれた酒場の裏庭から突き出た、薄汚れたマネキンの両足

失ってしまった


狂人の絶望した叫びを、瞬間が音を立てて崩れていく音を、飢えた獣のうめき声を、鋭くとがった悪意のささめきを、聞くことのできた耳を、失ってしまった。


自分でさえ理解できない古代の記号を発し、清らかな言葉を腐臭のする悪罵に変え、四角く区切られた街を吐瀉物にまみれた廃墟にすることのできた、あの饒舌で無分別な口を、失ってしまった。


触れられた途端に破裂する皮膚を、世界ごと自分を握りつぶした左手を、暴力的な愛撫をした右手を、ガラス球のように何も見えてない透明な目を、細く揺れていた神経のピアノ線を、男にも女にも犬にも勃起していた陰茎を、私は、失ってしまった。


残ったのは、白く塗られ、型どおりのポーズを示す、美しい彫像。
裸でも目を背けられない、真鍮でできた、世にも美しい、空洞。

落下した白頭鷲の首を掲げるインディオ

戦争のない時代に生まれてよかったね。

茶色く垂れた雲の先端を見つめて、歩きつづけなければいけない灰色の平坦な道路がある。
飽きるほど食べ続けた透明な鉛玉を血とともに吐き出し、その中に眠る女王の口付けを懇願する夜がある。
柔らかく暖かい寝床で不眠に苦しみながら迎える朝がある。
煌びやかなイルミネーションの下で燃え上がる人体を、泣き叫びながら手にした砂で消そうとする少女がいる。

それが私たちの戦争だ。淡々とどこまでも続く、遠い水平線のような戦争だ。

虹色ポップ

茶色く汚れた白い布紐をつたっていき、つないである四角い柱を下から眺めて、不意にそれが自分の父親のような気がする。長い間眺めても、それは錯覚ではないとわかる。やはり柱は父親以外の何ものでもない。私は柱にすがりついて泣く。それを見かけた母親は「ああ、お父さん、帰ってきたのね」と下着を脱ぎ始め、すがりつく息子を引き剥がして、性器をこすりつける。喘ぎ声を上げる母親を見て、私はさめざめともう一度泣き始め、母親ごと柱を切り倒すためにチェーンソーのスイッチを入れる。

緑色の狂気

蟻の大群に運ばれる彼の右足の親指に嵌められた指輪の深い緑色の宝石はいつの間にか転がり落ち、底の見えるほど澄んだ青の湖の中に沈む美しい男の死体の胸の真中に漂着して、百年を生きた黒なまずに一息で飲み込まれるまで、静かに空を見つめていた。