うらぶれた酒場の裏庭から突き出た、薄汚れたマネキンの両足

失ってしまった


狂人の絶望した叫びを、瞬間が音を立てて崩れていく音を、飢えた獣のうめき声を、鋭くとがった悪意のささめきを、聞くことのできた耳を、失ってしまった。


自分でさえ理解できない古代の記号を発し、清らかな言葉を腐臭のする悪罵に変え、四角く区切られた街を吐瀉物にまみれた廃墟にすることのできた、あの饒舌で無分別な口を、失ってしまった。


触れられた途端に破裂する皮膚を、世界ごと自分を握りつぶした左手を、暴力的な愛撫をした右手を、ガラス球のように何も見えてない透明な目を、細く揺れていた神経のピアノ線を、男にも女にも犬にも勃起していた陰茎を、私は、失ってしまった。


残ったのは、白く塗られ、型どおりのポーズを示す、美しい彫像。
裸でも目を背けられない、真鍮でできた、世にも美しい、空洞。