美しい水死体をひきずりながら歩く重い足取り

ゆっくりと、慎重に進まなければならない。ジャックナイフを研ぐように、腹式呼吸の練習のように。
踏み外してはいけない。私たちが歩いているのは、ピアノ線よりも細い柔らかい影。面積体積のない、どこまでも続く色のない断崖。
恐怖に駆られ、走り出すな。美しい妖婦の甘い香りに誘われるな。後ろを振り返るな、前だけを向いて歩け。光に目を奪われるな、光に目を背けるな。赤い舌を吐き出す餓鬼の涎に手を伸ばすな。
そして、万が一足を滑らせ、あるいは自発的に踏み外した場合、私たちは絶望の表情を浮かべなければならない。やってしまった、あるいは、しくじった。驚きと恐怖の入り混じった表情を浮かべ、決して舌を出したりしてはいけない。転落がどれだけ心地よく、解放感に満ちていたとしても、苦痛に悶える表情で、永遠に落下しつづけることが必要なのだよ、君たち。