未確認惑星572

気違いを野放しにするな。気違いを野放しにするな。俺の隣では始終しゃべりつづけている焦点の合ってない女が仕事をしている。彼女は仕事ができる、らしい。だが、そんなことはどうでもいいことだ。話すときに顔を見つめずに空に目を向ける女だ。独り言を口ずさみながら、キーボードをたたく女だ。一々大げさな身振りをして、髪を振り乱す女だ。
これが気違いでなくてなんだというんだ!精神病院に放り込め!猿ぐつわをかませて、手足をベッドに縛り付けろ!その後は鎮静剤だ。馬も気絶するくらいの極太の注射針を脳天に射ち込んでやれ!こんな奴が街中をうろついているなんて、悲劇を通り越して喜劇じゃないか。


だが、みんなは寛容だ。彼女の言う意味不明な言葉の羅列に一々うなづき、時には笑ってさえあげる。神のような寛容さだ!聖者よ、名もなきパウロたちよ!
だが、俺は違う。無視だ。断固たる無視だ。気違いには徹底的な無視が必要なのだ。気違いに言葉は通じないからだ。俺の辞書に書かれている言語は、気違いには不要な美しい言葉ばかりだ。気違いは事実ばかり喋る。自分のことばかり喋る。得意げに、自慢げに、四角い箱に頭を囲まれているのも知らずに。俺はすがすがしいほどの無視で、その木箱に鉄釘を打ち付ける。二度と出てこれないように、二度と喋れないように。


しかし、それでも追いつかない。
世の中になんと気違いの多いことか!大量の木箱頭が街をうろつきまわっている。俺はその1つ1つの箱に釘を打ち付け、それでもくぐもった声で喋ろうとする奴の首をかっきって、その箱入り首を多摩川に流し、太平洋を泳ぐ鯨に食わせていく。食わされる鯨は大変だ。気違いどもの首ばかり食わされて、頭がおかしくなってしまうだろう。たまに海岸で自殺する鯨がいるが、きっとあれは腐った脳味噌を食わされすぎたせいだ。
食い切れない頭は太平洋に浮かび、やがて腐って海の底に沈む。気違いはそれでも喋りつづける。延々と、ただ棒読みで、この世の道理とルールについて、口が溶けるまで。
俺はその口を溶接工具で繋ぎ合わせようとする。だが、それも一時的なものでしかない。奴らはもごもごと唇を動かした後に、突如噴火するように言葉を吐き出す。規範、正義、生きるための十か条。くそくらえだ!俺はその言葉一つ一つにニトログリセリンで爆発させ、跡形もなく吹き飛ばし、ついでに首だけになった気違いにアヘンを嗅がせて、徹底的にぶち壊す。


だが、だが、きりがないのだ!気違いが多すぎる!深海の底に逃げても、奴らの首はミシシッピから、長江から、ガンジス川から、次々と俺の上に降ってくる。やがて、俺は降りしきる首の豪雨に埋もれ、窒息してしまうだろう。いくらもがいて、助けを呼んでも、誰もこない。地球はもう気違いの惑星になってしまった。地上をうごめき、地中から這い出る化物たちに支配された、狂気の惑星だ。だが、私は言おう、ハレルヤ!古代からこの地球は様々な気違いがいつも支配していた!そいつらが、ついにまともな人間を駆逐しただけの話だ。俺はもう一度言う。ハレルヤ!新たな単一民族の誕生に、ハレルヤだ!