書け、そして死ね

男は記事を書く仕事をしていた。安全なセックスや快適なアームチェアやよく飛ぶチタンアイアンについて、もしくは、愛の意味について、人生の意義について、仕事の尊厳について、様々な名前を使って彼は記事を書いた。そして、それら全てについて、逆の結論(愛の無意味について・・・・など)を導く記事も同時に書いていた。
彼が記事を書き始めてから、指の数では到底足りないくらいの年数が経っていた。あまりにも長い年数記事を書き続けたので、彼は次第に言葉を失っていった。書いた言葉から順に喋れなくなっていったのだ。しかし、それでも彼の生活に支障はなかった。彼が話す機会は相当に限られていたし、それもうなずくか首を横に振るかで代用できる事に限られていたからだ。電話は、聞いているだけで相手が満足して切っていった。
彼が消えたのはそれから数年後だった。すべての言葉を使い尽くすと、彼は言葉のみで構成されていたので、消失してしまった。最後に書いた彼の言葉は彼の本名だった。